今の子どもたちは、水筒を持って学校や幼稚園などに行きますよね。
また、最近はマイボトルを携帯して通勤する人も増えました。
水分を補給するために重宝する水筒ですが、実は水筒に入れたせいで飲み物が雑菌に汚染される可能性があることをご存じでしょうか?
水筒は洗っても雑菌が残存している場合が多く、清浄な飲み物を水筒に入れたとしても水筒由来の雑菌で汚染される可能性があります。
雑菌を多く含む飲み物を飲むと食中毒などの健康リスクがあり、抵抗力の弱い子供の場合は特に心配です。
水筒による飲み物の雑菌汚染リスクを知って、できるだけ対策をしましょう。
以下では、ライフサイエンス系博士(本ブログの管理人)が、水筒入れておいた飲み物の雑菌汚染とその対策について紹介します。
目次
子供たちが学校に持参した水筒水の雑菌汚染調査
子どもたちが学校に持参した水筒の水やお茶など(以下、水筒水と呼びます)を対象に、雑菌汚染を調査した結果が論文で報告されています(参考文献1)。
この調査は、兵庫県内の小学校または中学校にかよう児童生徒の協力のもと、平成15年~平成17年の間に計5回行われました。
その結果、「学校環境衛生の基準」の飲料水の判定基準を満たす水筒水の割合が以下であったことが報告されています。
「学校環境衛生の基準」の飲料水の判定基準:
一般細菌:1 mL中の検水で形成される集落数が100以下であること
大腸菌及び大腸菌群:検出されないこと
・1回目の調査:判定基準に合格したのは 0%(調査数:25の水筒水)
・2回目の調査:判定基準に合格したのは10%(調査数:30の水筒水)
・3回目の調査:判定基準に合格したのは14.3%(調査数:35の水筒水)
・4回目の調査:判定基準に合格したのは 5.7%(調査数:35の水筒水)
・5回目の調査:判定基準に合格したのは 5.6%(調査数:18の水筒水)
児童生徒が学校に水筒に入れて持参した水筒水の多くは、「学校環境衛生の基準」の飲料水の判定基準を満たさず、衛生的に問題があるという結果になっています。
そして、一般細菌が基準より大幅に多く検出された水筒水(1 mL中の検水で形成される集落数が10,000以上)は5回の調査全体の59.4%(143の水筒水のうちの85)、大腸菌及び大腸菌群が多く検出された水筒水(1 mL中の検水で形成される集落数が1,000以上)は30.8%(143の水筒水のうちの44)もあり、児童が持参した水筒水の半分近くが雑菌に高度に汚染されていた結果となっています。
この水筒水の雑菌汚染は一般的に起こっていることだと考えられます。
もちろん大人が使用するマイボトルも例外ではありません。
私の子供も水筒をもって小学校に通っていますが、心配になってしまう結果です。
水筒水の雑菌汚染の原因は水筒
上記で紹介した論文(参考文献1)では、水筒水の雑菌汚染の原因についても調査が行われました。
この調査では、水筒に入れる前の飲み物と、水筒に入れた後児童が学校に持参した水筒水の雑菌汚染について比較が行われました。
その結果、水筒に入れる前の飲み物が清浄であっても、児童が学校に持参した水筒水では雑菌の多い不衛生な状態(「学校環境衛生の基準」の飲料水判定基準を満たさない)に変化していました。
水筒に入れる前の飲み物では検出されなかった大腸菌群が水筒水では検出されたケースが多数あり、水筒が雑菌の汚染源であることが調査結果から示唆されました。
水筒水のなかで雑菌が増えたわけではない?
登校時と昼休み時に水筒水を採取して行った雑菌汚染調査の結果、3~4時間程度の時間差をおいた場合でも顕著な雑菌数の増加は認められなかったことが別の論文で報告されています(参考文献2)。
このことから、水筒水の雑菌数が多い理由は、水筒水の中で雑菌が急激に増えたためではなく、水筒を汚染していたたくさんの雑菌が水筒水に混入したためかもしれません。
この考えが正しければ、たとえ雑菌が増えにくい冷たい飲み物を水筒に入れたとしても、水筒からたくさんの雑菌が混入し、水筒水の雑菌数は多くなってしまうかもしれません。
水筒の雑菌汚染を抑える方法を考察
水筒水の雑菌数をできる限り少なくするためには、水筒の雑菌汚染を抑える必要があります。
そこで、水筒の雑菌汚染を抑える方法を以下にいくつか考察してみました。
・水筒の材質は関係なさそう
水筒にはステンレス製やプラスチック製などの材質の違いがありますが、上記で紹介した論文(参考文献1)では雑菌の検出に材質の影響は認められませんでした。
そのため、水筒の材質は雑菌汚染とはあまり関係がないようです。
・ストロー付の水筒は避けたほうがベター
上記で紹介した論文(1)において、ストロー付の水筒は検出される雑菌の数が多い傾向がありました。
ストローは内部の洗浄・乾燥が難しく、雑菌が増える可能性があります。
そのため、ストロー付の水筒は避けたほうが良いかもしれません。
同様に、構造が複雑で洗浄・乾燥が難しい飲み口(注ぎ口)の水筒も避けたほうがよさそうです。
・水筒の洗浄方法
飲み物の成分は雑菌の栄養源となる可能性があるので、使用後の水筒はしっかり洗うことが大切です。
でも、一般的な洗浄では水筒の汚れは落とせても、雑菌を除くことは難しいです(参考文献1)。
食器用スポンジには雑菌が多く存在しており(参考文献3)、スポンジで洗うことでかえって水筒が雑菌に汚染されてしまう可能性もあります。
また、水分を拭きとる食器用ふきんにも雑菌が多く存在し、使用すると水筒の雑菌汚染につながる可能性があります(参考文献4)。
水筒の雑菌を増やさない洗浄方法としては、煮沸消毒した清潔なスポンジで洗うことや、ふきんの代わりに使い捨て可能な清潔なキッチンペーパーを使用することが有効かもしれません。
関連記事「食器用スポンジは雑菌まみれ?使用直前に煮沸消毒が衛生的」と「ふきんが臭い!ふきんで拭くことは雑菌を塗りつけることと同じかも」もよかったら読んでみてください。
上記で紹介した論文(参考文献1)では、食器洗い乾燥機(食洗機)を用いた水筒の洗浄・乾燥が雑菌汚染を抑える可能性があると指摘されています。
多くの食器洗い乾燥機では50℃以上で洗浄が行われ、乾燥はヒーターを用いて行われます(加えて約80℃ですすぎ可能な機種もある)。
この高温環境が水筒の雑菌を殺菌して除いてくれる可能性があります。
ただし、これには食器洗い乾燥機とそれに対応した水筒が必要になります。
食器洗い乾燥機に対応した水筒の例
もし食器洗い乾燥機がない場合は、近頃は工事不要でお手頃な食器洗い乾燥機があるので、衛生面を考えて購入するのもありかもしれません。
工事不要の食器洗い乾燥機
・お湯で殺菌
雑菌の多くは60℃以上のお湯で殺菌できます。
水筒の雑菌汚染を抑えるには、お湯で殺菌することが最良の方法かもしれません。
そのため、お湯(可能なら熱湯)に耐えられる水筒を使用することをおすすめします。
お湯での殺菌はたまにではなく水筒を使用するたびに行ったほうがいいです(しばらく水筒を使っていなかった場合は、使用する前にお湯を用いた殺菌を行ってください)。
お湯での殺菌は以下の手順で行うといいと思います。
やけどには気をつけてください。
① 水筒を洗う
② 水筒が耐えられる温度のお湯(可能なら熱湯)を水筒内に入れる(水筒の容量分入れてください)
③ 水筒に飲み口(注ぎ口、蓋)をつけて10分程度置く
④ 飲み口などからお湯を全部流す(できない場合は飲み口などを外してお湯を流す)
⑤ 飲み口などを外し、水筒を自然乾燥させる
まとめ
ここでは、水筒に入れた飲み物が水筒由来の雑菌に汚染される可能性があることをご紹介しました。
これを防ぐには、水筒の雑菌汚染を抑えることが大切です。
食器洗い乾燥機とそれに対応した水筒の使用や、洗浄方法の工夫、お湯を用いた殺菌などが水筒の雑菌汚染を抑えることに効果があるかもしれません。
水筒を清潔にして、雑菌汚染された飲み物を飲まないようにしてくださいね。
参考文献
- 森脇裕美子ら. 学校環境の衛生学的評価に関する研究 (第2報)-水筒の細菌汚染調査-. 学校保健研究 2011 53:135-144.
- 田中彩美ら. 学校環境の衛生学的評価に関する研究(第1報) 水筒水の細菌汚染調査.学校保健研究 2003 45:406-416.
- Cardinale M et al. Microbiome analysis and confocal microscopy of used kitchen sponges reveal massive colonization by Acinetobacter, Moraxella and Chryseobacterium species. Sci Rep 2017 7:5791.
- 岡崎貴世. 台ふきんと食器用ふきんの微生物汚染状況. 四国大学紀要 2015 42:13-16.
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