服を着ていて脇のあたりから汗臭いニオイがして困ったことないですか?
また、運動後のスポーツウェアがひどく臭うなんてことも。
もしかしたら、そのニオイはその服の素材が影響しているかもしれません。
合成繊維、特にポリエステルを素材とした服を着用すると、天然繊維である綿の服に比べてより強い体臭が発生する傾向があります(参考文献1,2)。
実は、ポリエステル素材がニオイの原因菌であるMicrococcus属細菌を選択的に増やしている可能性があります。
以下では、ライフサイエンス系の博士(本記事の著者)が研究論文などをもとに詳しく解説します。
目次
汗臭いニオイの原因菌Micrococcus属細菌
2016年の花王(株)のニュースリリースで、汗臭いニオイ(汗様のニオイ)の原因物質は複数の種類の脂肪酸(イソ酪酸、イソ吉草酸、2-メチル酪酸などの複数の短鎖脂肪酸や、4-メチルペンタン酸、4-メチル-3-ペンテン酸、4-メチルヘキサン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸などの複数の中鎖脂肪酸)であることが報告されています(参考文献3)。
そして、この原因物質の発生にはMicrococcus(マイクロコッカスまたはミクロコッカスと呼ばれます)属細菌が主に関係していることが報告されています(参考文献3)。
他の研究でも、Micrococcus属細菌は汗の成分である分岐脂肪酸を代謝して汗臭いニオイの原因物質をつくることが報告されており(参考文献4,5)、汗臭いニオイの原因菌と考えられています。
ポリエステルの服は綿の服より汗臭いニオイが強い
2014年に発表された研究論文では、ポリエステルの服は綿の服より汗臭いニオイが強いことが報告されています(参考文献1)。
この研究では、1時間のフィットネスバイクの運動で汗をかいたベルギー在住の男女26人(平均年齢39歳)からTシャツの提供を受けました。
Tシャツはプラスチック製のバッグに入れられた状態で保存され(室温)、28時間後に官能試験者がニオイを判定しました。
その結果、Tシャツの素材によって臭いの強さが異なり、ポリエステルのTシャツは綿のTシャツに比べて臭いが強烈だったそうです。
また、2007年に発表された別の論文でも、綿や羊毛よりもポリエステル生地は臭気強度が高かったことが報告されています(参考文献2)。
ポリエステル素材がMicrococcus属細菌を選択的に増やす
2014年に発表された上記の研究(参考文献1)ではTシャツに存在する微生物の解析が行われました。
その結果、ポリエステルのTシャツではMicrococcus属細菌の存在が認められましたが、綿のTシャツではMicrococcus属細菌はほとんど認められませんでした。
そのため、綿のTシャツに比べてポリエステルのTシャツのほうがニオイが強烈だった理由は、ポリエステルのTシャツでのみMicrococcus属細菌(汗臭いニオイの原因菌)が増殖したためと考えられました。
詳細な理由は不明ですが、ポリエステルの服の中はMicrococcus属細菌の増殖にとって有利な環境となっているようです。
そして、以上のことを言い換えると、ポリエステル素材がニオイの原因菌であるMicrococcus属細菌を選択的に増やすといえそうです。
ポリエステル素材の服が汗をかいた後ニオイやすい理由を整理
人間の肌(表皮)には微生物が常に存在しています。
Micrococcus属細菌はもともと肌にいる常在菌です(参考文献6)。
肌に存在していたMicrococcus属細菌が、服との接触や汗に運ばれて服の中に移動し、服の素材がポリエステルだと増えてしまいます。
そして、ポリエステル素材の服の中でMicrococcus属細菌が汗の成分を代謝して汗臭いニオイの原因物質をつくります。
その結果、ポリエステル素材の服では汗臭いニオイがすることになります。
ポリエステル素材の服での汗臭いニオイへの4つの対策
ポリエステル素材の服を着る必要がある場合には、できれば汗臭いニオイの発生は抑えたいですよね。
そこで、汗臭いニオイへの対策を4つ紹介します。
① 綿の下着を着る
2014年に発表された研究論文(参考文献1)で、Micrococcus属細菌は綿の服で増殖しにくいことが示されています。
ポリエステル素材の服を着るときに綿の下着を着用することで、汗臭いニオイの発生が低減される可能性があります。
ただし、下着は綿100%のものを着用してください。
下着の素材が綿と合成繊維[ポリエステルだけでなくエラスタン(ポリウレタン)なども含む]の混合の場合は、Micrococcus属細菌が増えて汗臭いニオイの発生につながる可能性があります(参考文献1)。
また、キャミソールやタンクトップではなく、汗の多い脇をカバーできる袖付きの下着が好ましいです。
② 脇汗パッドを使用する
汗を吸ってくれる脇汗パッドを使用することも汗臭いニオイの発生を低減することにつながります。
③ 抗菌作用のある銀イオンを含むアルコール溶液をスプレー
服の中でMicrococcus属細菌が増殖しないようにすることは、汗臭いニオイの発生の低減につながります。
銀イオンを含むアルコール溶液(60%)であるHydro Ag+[富士フイルム(株)]をポリエステル素材の服にスプレーすれば、スプレー時のアルコールによる除菌作用と銀イオンの持続的な抗菌作用でMicrococcus属細菌の増殖が抑えられ、汗臭いニオイの発生が低減される可能性があります。
Hydro Ag+をスプレーするときは、服を着る前に服の裏側から行うとよいでしょう。
ただし、アルコールによる衣類の変色には注意が必要です。
④ ニオイが気になる場合は制汗スプレー
ポリエステル素材の服を着ていて汗臭いニオイが発生した場合は、消臭と除菌効果のある制汗スプレーを使用するのが効果的です。
汗臭いニオイがする服の洗濯方法
汗臭いニオイがする服は、他の洗濯物に臭いやMicrococcus属細菌が移らないようにするため、分けて洗うことをお勧めします。
消臭と抗菌効果のある洗剤が好ましいです。
臭いが強いものは、洗面器などの容器を使い、40℃程度のお湯に洗剤を入れ、30分~1時間程度つけ置きしてから、通常の洗濯を行うとよいかもしれません。
おすすめの洗剤
温度計
つけ置きにはコンパクトに折りたたみ可能な容器がおすすめ
また、汗臭いニオイはMicrococcus属細菌の活動が原因です。
Micrococcus属細菌の活動時間が長ければそれだけ汗臭いニオイの原因物質も発生してしまいます。
ポリエステル素材の服は脱いだらなるべく早めに洗濯しましょう。
すぐに洗濯できない場合は、Hydro Ag+をスプレーしてMicrococcus属細菌の活動を抑制するのもよいかもしれません。
特に放置すると汗臭いニオイが発生する可能性が高い運動後のスポーツウェアにはHydro Ag+をスプレーすることをおすすめします。
まとめ
ポリエステル素材の服は汗をかいた後ニオイやすいです。
その理由の1つは、ポリエステル素材が汗臭いニオイの原因菌であるMicrococcus(マイクロコッカス)属細菌を選択的に増やす性質があるからです。
ポリエステル素材の服を着るときは、可能であればニオイの発生対策をして、着た後はなるべく速やかに洗濯をすることを心がけましょう。
参考文献
- Callewaert C et al. Microbial odor profile of polyester and cotton clothes after a fitness session. Appl Environ Microbiol 2014 80(21):6611-6619.
- McQueen RH et al. Odor intensity in apparel fabrics and the link with bacterial populations. Text Res J 2007 77:449-456.
- 汗をかいた後に衣類から発生するニオイ成分とその原因菌を解明 ~衣類上のマイクロコッカス菌が汗様臭を発生~. 花王(株)ニュースリリース(2016年06月08日). https://www.kao.com/jp/corporate/news/rd/2016/20160608_001/
- Leyden JJ et al. The microbiology of the human axilla and its relationship to axillary odor. J Invest Dermatol 1981 77:413-416.
- James AG et al. Fatty acid metabolism by cutaneous bacteria and its role in axillary malodour. World J Microbiol Biotechnol 2004 20:787-793.
- Kooken JM et al. Characterization of Micrococcus strains isolated from indoor air. Mol Cell Probes 2012 26(1):1-5.
<おすすめ記事>