お部屋で洗濯物を干すと生乾き臭が発生して、洗濯物が臭くなってしまうことがあります。
乾燥した後も洗濯物に臭いが残り、洗濯後の服を着るとクサイ臭いがして嫌な思いをしますよね。
生乾き臭のする服を着て外出すると、周りの目も気になります。
このイヤな生乾き臭の原因は、部屋干しの洗濯物の中でモラクセラ菌という細菌が悪臭物質をつくることにあります。
ここでは、ライフサイエンス系博士(本ブログの管理人)が関連する研究論文を基にこのモラクセラ菌と悪臭物質についてと、その対策を紹介します。
目次
洗濯物の生乾き臭はどこの家庭でも起きる
生乾き臭は「雑巾の様な臭い」とも表現され、とても不快な臭いです。
東京在住の20歳から60歳までの580人の女性を対象とした2008年の花王(株)による調査では、室内で衣類などを干して乾かすときに86%の人が生乾き臭を経験したことがあると回答したそうです(参考文献1)。
このことから、洗濯物の生乾き臭は特別なことではなく、多くの家庭で起こっていることがわかります。
生乾き臭の主成分は脂肪酸
生乾き臭の主成分は4-メチル-3-ヘキセン酸(4-methyl-3-hexenoic acid)という脂肪酸です(参考文献1,2)。
化学式ではC7H12O2であらわすことができます。
生乾き臭のする衣類に存在する4-メチル-3-ヘキセン酸は微量ですが(最大5 μg/布50 g)、その臭いは強く、わずかな量でも臭います(参考文献1,2)。
衣類が乾燥しても、4-メチル-3-ヘキセン酸が存在すると生乾き臭がします。
生乾き臭の主成分はモラクセラ菌の代謝産物
2012年に発表された研究論文(参考文献1)で、Moraxella osloensis(モラクセラ オスロエンシス)という細菌が生乾き臭の主成分である4-メチル-3-ヘキセン酸を産生することが報告されました。
Moraxella osloensisは一般的にモラクセラ菌と呼ばれることが多いです。
モラクセラ菌は、洗濯後の衣類に残存する皮脂の成分である分岐脂肪酸を代謝して(不飽和化およびβ酸化反応)、生乾き臭の主成分である4-メチル-3-ヘキセン酸をつくると考えられています(参考文献3)。
この細菌は、厄介なことに乾燥と紫外線照射に対して高い耐性を有しており、乾燥中および乾燥後の洗濯物の中で生き残り、4-メチル-3-ヘキセン酸をつくります(参考文献1)。
洗濯のせいで衣類などがモラクセラ菌に汚染されるかも?
家庭用洗濯機を用いた洗濯は、衣類などの汚れを落としてくれますが、存在する細菌を滅菌してくれるわけではありません。
それどころか、洗濯の方法によっては、洗濯のせいで衣類などが細菌に汚染されてしまう可能性があります。
2015年に発表された研究論文(参考文献4)では、洗濯前の衣類(綿のTシャツ)に存在した様々な種類の細菌が洗濯後も衣類に残存していたことが報告されています。
また、洗濯によって「たくさんの細菌に汚染された衣類」から「細菌の少ないきれいな衣類」へ細菌が移る可能性もあるようです。
モラクセラ菌の場合も洗濯機での洗濯中に衣類などを汚染することが考えられます。
モラクセラ菌には健康リスクあり
モラクセラ菌は日和見感染の原因になることが知られています(健康な人には病原性をほとんど示しませんが、免疫が低下した人などに対して病原性を示します)(参考文献1)。
例えば、髄膜炎、リンパ節炎、眼内炎、菌血症、血液系腫瘍などと関係があります(参考文献1)。
モラクセラ菌は生乾き臭を発生させるだけでなく健康リスクにつながる可能性があり、洗濯物の中でモラクセラ菌が増殖しないようにしたほうがよさそうです。
生乾き臭の発生(モラクセラ菌の活動)を抑えるための7つの方法
以上で紹介したように、生乾き臭の発生の主な原因は洗濯物に存在するモラクセラ菌です。
部屋干しの生乾き臭を防ぐには、モラクセラ菌に対処する必要があります。
モラクセラ菌への対処を中心とした生乾き臭の発生を抑えるための方法を以下に7つ紹介します。
① すでに生乾き臭のある洗濯物は分けて洗う
すでに生乾き臭のある衣類やタオルなどにはモラクセラ菌が存在している可能性が高いです。
他の洗濯物と一緒に洗ってしまうと、モラクセラ菌が他の洗濯物に移ってしまう可能性があります。
すでに生乾き臭のある衣類やタオルはほかの洗濯物とは分けて洗い、生乾き臭の原因となるモラクセラ菌が他の洗濯物に移ることを防ぎましょう。
② 洗濯の際は漂白剤を入れる
漂白剤には塩素系漂白剤と酸素系漂白剤がありますが、どちらも除菌作用があります。洗濯する衣類に合った漂白剤を洗濯の際に入れることで、生乾き臭の原因となるモラクセラ菌の除菌や増殖抑制が期待できます。
塩素系漂白剤の例:ハイター[花王(株)]
酸素系漂白剤の例:ワイドハイターEXパワー[花王(株)]
③ 効果的な洗剤を使う
モラクセラ菌は、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩またはドデシル硫酸ナトリウム)に弱いことが報告されています(参考文献1)。
洗濯の際に、これらの界面活性剤が使用されている洗剤を使用すれば、生乾き臭の原因となるモラクセラ菌の除菌や増殖抑制が期待できます。
例えば以下の洗濯用洗剤は、漂白剤と比較的高濃度の界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を含んでいるので、モラクセラ菌の増殖抑制や生乾き臭の発生防止に有効かもしれません。
アタック 洗濯洗剤 粉末 高浸透リセットパワー[花王(株)]
ニュービーズ[花王(株)]
④ 洗濯には水道水を使う
洗濯には水道水を使用することをおすすめします。
洗濯にお風呂の残り湯を使用することは避けたほうがいいです。
お風呂の残り湯には様々な細菌が存在しているので、洗濯物を細菌で汚染する原因となります。
また、お風呂には細菌の栄養となる汚れ(有機物)が含まれるので、モラクセラ菌をはじめ様々な細菌を増やすことにつながります。
特にすすぎの際にお風呂の残り湯を使用すると、せっかくきれいになった洗濯物がお風呂の汚れと細菌で汚くなります。
⑤ 洗濯の仕上げに60℃以上のお湯につける
洗濯が終わった後に洗濯物を60℃以上のお湯に20分程度つけることで、洗濯物に存在するモラクセラ菌を除菌できることが期待されます。
洗濯機の洗濯槽は60℃以上のお湯に対応できない可能性があるので、お湯につける際は60℃以上のお湯を入れても大丈夫な容器(洗面器やバケツ、桶など)を使用してください。
お湯につけた後は、洗濯機で脱水して干してください。
やけどには注意してください。
温度計の例
容器の例
⑥ 60℃以上のお湯で洗濯できる洗濯機を使用する
60℃以上のお湯で洗濯できる洗濯機であれば、洗濯中にお湯でモラクセラ菌を除菌し、生乾き臭の発生を防ぐことが期待できます。
ななめドラム洗濯乾燥機 NA-VG1500L-S (Panasonic)
洗濯コースに「約60℃おまかせ(除菌)」があります。
⑦ 部屋干しする際にアルコールスプレーする
部屋干しする際に洗濯物に70%のエタノール溶液をスプレーしておくと、エタノールの除菌作用でモラクセラ菌を除菌し、生乾き臭の発生を抑制できることが期待できます。
70%のエタノール溶液に関しては別記事「お風呂のピンク汚れの原因はカビじゃない?本当の原因を知って対処!」に作り方が書いてあるので、よかったら読んでみてください。
また、銀イオンを含むアルコール溶液(60%)であるHydro Ag+[富士フイルム(株)]を洗濯物にスプレーすれば、スプレー時のアルコールによる除菌作用と銀イオンの持続的な抗菌作用でモラクセラ菌の活動を抑制し、生乾き臭の発生を抑えることが期待できます。
ただし、アルコール(エタノール)による衣類の変色には注意してください。
まとめ
部屋干しの生乾き臭の原因は、部屋干しの洗濯物の中でモラクセラ菌(Moraxella osloensis)が悪臭物質(4-メチル-3-ヘキセン酸)をつくることにあります。
洗濯方法などを工夫して、洗濯物の中でモラクセラ菌の活動を抑制することが生乾き臭の発生を防ぐためには大切です。
モラクセラ菌は日和見感染の原因でもあり、洗濯物の中でモラクセラ菌の活動を抑制することは、健康リスクの低減にもつながります。
参考文献
- Kubota H et al. Moraxella species are primarily responsible for generating malodor in laundry. Appl Environ Microbiol 2012 78(9):3317-3324.
- Takeuchi K et al. Identification of novel malodour compounds in laundry. Flavour Fragr J 2012 27(1):89-94.
- Goto T et al. Complete genome sequence of Moraxella osloensis strain KMC41, a producer of 4-methyl-3-hexenoic acid, a major malodor compound in laundry. Genome Announc 2016 4(4):e00705-16.
- Callewaert C et al. Bacterial exchange in household washing machines. Front Microbiol 2015 6:1381.
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