日本の食卓でなじみ深い海苔(のり)。
海苔にはタンパク質やミネラルなどの栄養素以外にポルフィランという食物繊維が含まれています。
人間の体自体は海苔を食べてもこのポルフィランを消化することはできません。
でも、日本人の多くは腸内に海苔のポルフィランを分解可能な腸内細菌を有していて、この腸内細菌の力を借りてポルフィランを消化しています。
一方、多くの外国人の腸内にはポルフィランを分解可能な腸内細菌が存在しないそうです。
そのため、海苔を消化できるのは日本人だけの可能性もあります。
うれしいことにポルフィランやその分解産物には健康増進につながる生理作用が知られています。
せっかく日本人として生まれたなら、海苔をおいしくいただいて健康になりましょう!
以下では、ライフサイエンス系博士(本ブログの管理人)が、ポルフィランの消化を手伝ってくれる腸内細菌Bacteroides plebeiusについてさらに紹介します。
目次
海苔の食物繊維ポルフィラン
海苔にはタンパク質やミネラルなどの栄養素以外にポルフィランという食物繊維が含まれています。
ポルフィランは海苔全体の30-35 %を占めているそうです(参考文献1)。
ポルフィランの消化には腸内細菌Bacteroides plebeiusが必要
私たちの体自体は海苔を食べてもポルフィランを消化することはできません。
ポルフィランを消化するためにはポルフィランを分解する腸内細菌の力が必要になります。
このポルフィランを分解可能な腸内細菌はBacteroides plebeiusといいます。
海苔を消化できるのは日本人だけ!?
これまでの研究から、多くの日本人の腸内にはこのポルフィランを分解可能な腸内細菌Bacteroides plebeiusが存在することが示唆されています(参考文献2,3)。
そのため、日本人は海苔を食べた際に海苔のポルフィランを消化することができると考えられています。
一方、外国人の腸内にはポルフィランを分解可能な腸内細菌はほとんど存在しないそうです(参考文献2,3)。
これには海苔に関する食文化が関係している可能性があります。
日本では海苔を日常的に食べますが、海外ではほとんど食べないそうです。
海苔を食べないなら、それを腸内で分解する必要もありません。
海苔をあまり食べない外国人の腸内にポルフィランを分解可能な腸内細菌が存在しないことは当然のことかもしれません。
Bacteroides plebeiusは日本人によって提唱された種
Bacteroides plebeiusは、2005年に新種として日本人によって提唱されました(参考文献4)。
言い換えると、Bacteroides plebeiusは日本人によって最初に発見されたともいえます。
種(Species)にはその特徴の基準となる株(Strain)である基準株(Type strain)が存在します。
この基準株には、健康な日本人の便から分離された株が指定されています。
腸内細菌Bacteroides plebeiusはポルフィラン分解能力を海洋細菌からもらった?
遺伝子系統解析を行った研究論文で、腸内細菌であるBacteroides plebeiusが持っているポルフィラン分解酵素(ポリフィラナーゼ)の遺伝子は、もともとは別の海洋細菌(海中に生息する細菌)の遺伝子であった可能性が指摘されています(参考文献1)。
つまり、過去に腸内細菌であるBacteroides plebeiusが何らかの方法により海洋細菌からポルフィラン分解酵素の遺伝子をもらった可能性があります。
異なる生物間での遺伝子の授受は遺伝子の水平伝播といわれ、それが起こったと考えられています。
腸内細菌であるBacteroides plebeiusがポルフィラン分解酵素遺伝子を獲得した経緯として、以下の仮説が論文(参考文献1)で紹介されています。
ポルフィランを分解可能なBacteroides plebeiusは祖先から代々受け継がれてきた?
日本では海苔を含め海産物を食す文化が古くからあります。
もしかしたら以下のような経緯で日本人の腸内にポルフィランを分解可能なBacteroides plebeiusが存在するようになったのかもしれません(論文(参考文献1)の仮説を参考に記述)。
- 日本人の祖先の腸内細菌叢(腸内フローラ)を構成する腸内細菌の一つとしてBacteroides plebeiusが存在(但し、まだポルフィラン分解能なし)
- 日本人の祖先が海洋細菌の付着した生の海苔などを食べることで腸内に海洋細菌が取りこまれる
- 腸内でBacteroides plebeiusが海洋細菌からポルフィラン分解酵素の遺伝子を何らかの方法で取得
- 海苔を食べる日本人の腸内でポルフィランを独占的に分解できるBacteroides plebeiusは生存が有利になる(日本人にも健康的な恩恵あり?)
- 祖先から現代の日本人まで、ポルフィランを分解可能なBacteroides plebeiusは代々受け継がれてきた
この仮説が本当なら、日本人の腸内に存在するポルフィランを分解可能なBacteroides plebeiusは、祖先から受け継いだものかもしれませんね。
ポルフィランの生理作用
ポルフィランには生理作用として、抗酸化作用、抗炎症作用、抗腫瘍活性、血清コレステロール低下作用、脂質代謝改善作用、血圧低下作用、腸内環境改善作用、糖代謝改善作用などが報告されています(参考文献5)。
部分的に分解を受けたポルフィランやポルフィラン由来のオリゴ糖も抗腫瘍活性や血清コレステロール低下作用などの生理作用を示すことが報告されています(参考文献6,7)。
腸内で部分的に分解を受けたポルフィランやポルフィラン由来のオリゴ糖が私たちの健康に有益な作用をしているかもしれません。
まとめ
海苔の食物繊維ポルフィランを分解する腸内細菌Bacteroides plebeiusを紹介しました。
ポルフィランを分解可能な腸内細菌Bacteroides plebeiusは日本人特有の可能性があり、もしかしたら遠い祖先から受け継がれてきたかもしれません。
ポルフィランとその分解物には健康増進につながる生理作用も期待されます。
日本人なら海苔を食べない手はないですね!
参考文献
- 大住幸寛ら. ポルフィラン分解細菌の分離と同定. Nippon Suisan Gakkaishi 1997 63(5):709-714.
- Hehemann, JH et al. Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota. Nature 2010 464:908-912.
- Nishijima S et al. The gut microbiome of healthy Japanese and its microbial and functional uniqueness. DNA Research 2016 23(2):125-133.
- Kitahara M et al. Bacteroides plebeius sp. nov. and Bacteroides coprocola sp. nov., isolated from human faeces. Int J Syst Evol Microbiol 2005 55(5):2143-2147.
- 友寄博子ら. 海苔由来水溶性食物繊維成分が食事脂質吸収に及ぼす影響. Nippon Suisan Gakkaishi 2018 84(2):269-273.
- 大住幸寛ら. ポルフィラン由来リゴ糖の消化・発酵性とマウスの血清コレステロール低下作用. Nippon Suisan Gakkaishi 1998 64(1):98-104.
- 大住幸寛ら.スサビノリポルフィラン由来オリゴ糖の抗腫瘍活性. Nippon Suisan Gakkaishi 1998 64(5): 847-853.
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