お風呂の床などに発生するピンク汚れはピンクカビと呼ばれることがあります。
でも、実際のピンク汚れにはカビはあまり存在せず、カビは原因ではありません。
ネットでは、ピング汚れの原因をRhodotorula(ロドトルラ)属の酵母と紹介されることがありますが、これも違います。
ピング汚れからはロドトルラ属の酵母が検出されることがありますが、ピング汚れの原因ではありません。
本当の原因は、カビでも酵母でもなく、ピンク色の細菌です。
このピンク色の細菌はMethylobacterium(メチロバクテリウム)属細菌と言います。
メチロバクテリウム属細菌は、バイオフィルム(ピンク汚れのヌメリの正体)を作り、浴室でのサバイバル能力が非常に高い特徴があります。
そのため、掃除してもメチロバクテリウム属細菌は生き残り、時間たつと増殖してピンク汚れが再発することがあります。
ピンク汚れの再発を防ぐには、スポンジなどを使ったこすり洗いによりピンク色のバイオフィルム(ヌメリ)を物理的に取り除き、その後にアルコールスプレー(70%のエタノール溶液)で除菌する方法がおすすめです。
以下では、ライフサイエンス系の博士(本記事の著者)が、研究論文などをもとにピンク汚れの原因を解説し、その対処法を紹介します。
目次
お風呂のピンク汚れは一般的な汚れ
お風呂や水回りに発生するヌメヌメしたピンク汚れ。
色がピンクで目立つので不快な気持ちになります。
せっかく掃除しても、しばらくたつとピンク汚れが再発生することもあります。
このお風呂のピンク汚れ、自分の家だけで発生しているかもしれないと、心配していませんか?
お風呂のピンク汚れが発生するのはあなたの家だけではありません。
このお風呂のピンク汚れ、どこの家庭にも起こり得る一般的な汚れです。
2019年に発表された論文(参考文献1)によると、70%以上の家庭でピンク汚れは認識されていて、浴室の排水溝周りの床、床の隅、シャンプー容器、収納棚、浴槽のフタなどで発生するとされています。
ピンク汚れの原因を知って、対処しましょう!
お風呂のピンク汚れ(ピンクカビ)の原因はカビじゃない
ピンク汚れはピンクカビと呼ばれることがあります。
でも、ピンク汚れの原因はカビではありません。
実際のピンク汚れの中には、カビはあまりいません(参考文献1,2)。
お風呂などにはカビが生えやすいという先入観から、ピンク汚れをピンクカビと呼んだりするのかもしれません。
ピンク汚れの原因はロドトルラ属酵母でもない
これまでの研究からピンク汚れには、主にRhodotorula(ロドトルラ)属の酵母やMethylobacterium(メチロバクテリウム)属の細菌などが存在することがわかっています。
ロドトルラ属酵母とメチロバクテリウム属細菌は両方とも目に見えるほど数が増えるとピンク色を示します。
以前は、ロドトルラ属酵母がピンク汚れの原因と考えられていたこともありました。
この従来の考えは、ピンク汚れ中にロドトルラ属酵母が存在していたという事実と、ロドトルラ属酵母が増殖しやすいという知見にもとづく推測にすぎませんでした(参考文献2,3)。
近年の研究から、ピンク汚れの中でロドトルラ属酵母は優占しておらず、それどころかピンク汚れから検出されない場合もあることが明らかとなりました(参考文献2-4)。
そのため、現在ではピンク汚れの原因はロドトルラ属酵母ではないと考えられています。
(一部のサイトでは古い情報をもとに“ロドトルラ属酵母がピンク汚れの原因”と紹介している場合があるようです)
ピンク汚れの本当の原因はメチロバクテリウム属細菌(ピンク色の細菌)
近年の研究から、ピンク汚れの本当の原因はメチロバクテリウム属細菌であると考えられています(参考文献2-4)。
メチロバクテリウム属細菌は、ピンク汚れの中で優占しており、肉眼で見えるほど数が増えるとピンク色を示します(参考文献2-4)。
また、メチロバクテリウム属細菌はバイオフィルムという生物膜を作り、これがピンク汚れのヌメリの正体になります。
バイオフィルムの中にはメチロバクテリウム属細菌だけでなく他の細菌やロドトルラ属酵母も一緒に存在することができます。
(バイオフィルムをアパートに例えると、メチロバクテリウム属細菌が住み込みの大家さんで、ロドトルラ属酵母は住人といえるかもしれません)
メチロバクテリウム属細菌はサバイバル能力が高い
バイオフィルムは、様々な外的要因(乾燥、殺菌作用のある物質、水に流されることなど)からバイオフィルム内に存在する細菌などを保護します。
そのため、バイオフィルムを作るメチロバクテリウム属細菌は、乾燥や殺菌作用のある物質(例えば、逆性石鹸、界面活性剤、塩素)に対して耐性があることが報告されています(参考文献2,5)。
また、メチロバクテリウム属細菌は細胞内に栄養分をためることができ、栄養の少ない環境でも生存できます。
そのため、メチロバクテリウム属細菌はサバイバル能力が高く、乾燥と湿潤を繰り返すという比較的過酷な環境である浴室内でも増殖します。
メチロバクテリウム属細菌はどこから来た?
メチロバクテリウム属細菌は土壌や川など身近な自然環境に存在しています(参考文献2)。
また植物の葉の表面などに生息していることが知られています(参考文献6)。
雨にも存在しています(参考文献7)。
人の出入りや換気など、何らかの理由で浴室にやってくると思われます。
メチロバクテリウム属細菌の浴室への侵入を完全に防ぐのは難しいかもしれません。
厄介なピンク汚れ
ピンク汚れは浴室で比較的急速に発達し、取り除くのが難しく、すぐに再発します。
これはメチロバクテリウム属細菌の性質のためと考えられます。
メチロバクテリウム属細菌は25℃前後の温度で、2~3日で目に見えるほどにまで増殖します(参考文献1,2)。
そして、バイオフィルム(ヌメリ)を形成するので、水や40℃程度のお湯、一般的な洗剤をかけただけでは取り除くことができません。
浴室を乾燥させても、バイオフィルム内のメチロバクテリウム属細菌などは生存しています。
ピンク汚れをこすり洗いによって落としても、メチロバクテリウム属細菌はわずかに生き残り、また増えてピング汚れが再発することになります。
ちょっと厄介ですね。
ピンク汚れへの対処法
ピング汚れは面倒な汚れですが、多くの場合はこすり洗いで落とすことができます。
大事なのはその後に、メチロバクテリウム属細菌を除菌することです。
メチロバクテリウム属細菌を除菌することで、ピング汚れの再発を抑制できることが期待できます。
こすり洗いでピンク汚れを落とす!
ピンク汚れのヌメリ(バイオフィルム)は様々な外的要因から中の微生物たちを守るバリアになっているので、洗剤や水をかけただけでは落ちません。
こすり洗いして物理的にピンク汚れを取り除きましょう。
浴室用洗剤を含ませたスポンジなどを使ったこすり洗いの後は、水でしっかり流してピンク色が見えなくなるまできれいにしましょう。
裏技:もしピンク色が落ちない場合は、後述のアルコールスプレーをかけて拭き取ると落ちることがあります(水に溶けにくいピンク色の色素がアルコールに溶けだす)。
再発防止にアルコールスプレー(エタノール)で除菌!
ピンク色が見えなくなってもメチロバクテリウム属細菌はわずかに残っている可能性が高いです。
そのままにしておくとメチロバクテリウム属細菌が増殖して、再びピンク汚れが発生してしまう可能性があります。
ここで思い出してください。
上記で説明したように、メチロバクテリウム属細菌は塩素、逆性石鹸、界面活性剤など一般的な殺菌作用のある物質に耐性があります。
そのため、一般的な洗剤はメチロバクテリウム属細菌を除菌するには効果的ではありません。
そこで、アルコールスプレーによる除菌を行ってください。
高濃度のアルコール(例えば濃度が70%のエタノール溶液)は多くの細菌に対して除菌効果があります。
メチロバクテリウム属細菌に対しても有効です。
アルコールスプレーによる除菌の方法としては、ピンク汚れを取り除いてきれいにした部分全体にアルコールスプレーをスプレーして、そのまま放置して乾燥させてください。
アルコールは揮発するので拭き取る必要はありません。
(アルコールスプレー使用時は浴室などの換気をし、火気厳禁でお願いします)
アルコールスプレーの例
アルコールスプレーは自作できる
アルコールスプレーは市販のもの(アルコール濃度が70%程度)を使用してもいいですが、自作することもできます。
以下に方法を書いておくので参考にしてください。
アルコールスプレー(70%のエタノール溶液)の自作方法
市販の無水エタノールと水道水を7:3の割合で混ぜて約70%のエタノール溶液を作ります。
スプレーボトルに70%のエタノール溶液を入れて完成です。
(スプレーボトルの目盛りを利用して無水エタノールと水道水を7:3の割合で混ぜてもOKです)。
簡単に作れるのでぜひチャレンジしてみてください!
無水エタノール
スプレーボトルの例(スプレーボトルはエタノールに対応した素材ものを使用してください)
まとめ
お風呂のピンク汚れの本当の原因は、ピンク色の細菌であるMethylobacterium(メチロバクテリウム)属細菌です。
メチロバクテリウム属細菌は、バイオフィルム(ピンク汚れのヌメリの正体)を作り、浴室でのサバイバル能力が非常に高い特徴があります。
そのため、掃除してもメチロバクテリウム属細菌は生き残り、時間たつと増殖してピンク汚れが再発することがあります。
ピンク汚れの再発を防ぐには、スポンジなどを使ったこすり洗いによりピンク色のバイオフィルム(ヌメリ)を物理的に取り除き、その後にアルコールスプレーで除菌する方法がおすすめです。
参考文献
- 山岸弘. 一般住宅の浴室・トイレにおける微生物汚染と対策. 室内環境 2019 22(1):73-79.
- Yano T et al. Stress tolerance of Methylobacterium biofilms in bathrooms. Microbes Environ 2013 28(1):87-95.
- 特開2012-5455.
- 特開2012-36179.
- Hiraishi A et al. Phenotypic and genetic diversity of chlorine-resistant Methylobacterium strains isolated from various environments. Appl Environ Microbiol 1995 61:2099-2107.
- 阪井康能. メタノール資化性葉面共生菌による“C1炭素固定”と農学への展開. 農業および園芸 2020 95(1):27-32.
- Hu W et al. Bacterial abundance and viability in rainwater associated with cyclones, stationary fronts and typhoons in southwestern Japan. Atmos Environ 2017 167:104-115.
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