Gakken(学研)の「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」をライフサイエンス系博士がレビューします。
DNAという言葉は知っていても、実際に見る機会はほとんどないですよね。
この「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」を使用することで、身近な食材などからDNAを抽出して、実際に目で見ることができます。
もし初めてDNAを見るなら小さな感動があるかもしれません。
キットになっているので、ライフサイエンス(生命科学)に関連した本格的な実験をお手軽に体験できるのも魅力です。
この商品は小学校高学年から中学生ぐらいの子供におすすめですが、大人がやっても十分に楽しめますよ。
以下では、ブロッコリーからのDNA抽出を実際にやってみた結果や自由研究のヒントなどを紹介します。
購入を考えている方は参考にしてみてください。
目次
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」について
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」は(株)学研ステイフル(発行所は(株)学研プラス)から販売されている科学実験キットの1つです。
実験用の器具や材料が入ったキットと、実験方法や手順がわかりやすく記載されたガイドブック、自由研究のまとめ方の実例レポートがついたセットで、小中学生の夏休みの自由研究などにもピッタリです。
ただし、実験を行うためには商品以外に、エタノール、食卓塩、食材などを事前に準備する必要があるので注意してください。
商品の基本的な情報を以下に紹介します。
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」の情報
対象年齢:小学3年生以上
キットの内容
・試験管(5本)
・キャップ(5個)
・試験管立て
・スポイト
・まぜ棒
・メッシュのふくろ(2枚、1枚は予備)
・細胞溶解液のもと
・ガイドブック
・実例レポート
商品以外に準備が必要なもの
・エタノール(無水エタノールがおすすめ)
・食塩(普段料理に使っている塩でOK)
・DNA抽出に用いるブロッコリー、レバーなどの材料
・小さめのペットボトル容器
・金属製のスプーン
・はさみ
・ラップ
・新聞紙
あると便利なもの
・計量カップ
・電子はかり(キッチンスケール)
・紙(コピー用紙など)
・スポイト(キット付属のものとは別に市販のスポイトを用意しておくと、溶液を試験管に入れるのが簡単になります)
ブロッコリーからのDNA抽出実験
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」の実験キットを実際に使って、ブロッコリーから抽出したDNAを見ることができるのか検証してみました。
基本的にはガイドブックに書かれている方法に従って実験を行いましたが、一部違う方法で行っている部分もあります(作業方法が違うだけで本質的には同じです)。
A. 細胞溶解液の調製
まずはDNA抽出実験で使用する細胞溶解液の調製を行います。
作業としては40 mLの水に1.5 gの食塩と細胞溶解液のもとを混ぜるだけです。
以下に実際の手順を紹介します。
手順A1.
ペットボトルに40 mLの水を入れる
キレイに洗ったペットボトルに40 mLの水(水道水)をいれます。
ガイドブックではキット付属の試験管を使って、水を計量して入れる方法がのっていますが、今回は計量カップで40 mLの水を計量してペットボトルに入れました。
計量カップを使うほうが簡単です(ガイドブックは計量カップが無くてもできるように記載されています)。
さらに40 mLの水を計量する別の方法として、電子はかりを使って40 gの水をはかっていれる方法があります。
電子はかりがあるならこの方法でもOKです。
<補足説明>
これは、水の比重が約1.0であることを基にしています。
水の密度は約1.0 g/cm3と表記できます。
これは1.0 cm3の体積の水が、1.0 gの重さであると言いかえることができます。
また、1.0 cm3の体積は1.0 mLの容積と等しいので以下の式となります。
水1.0 g ≒ 1.0 cm3 = 1.0 mL
(≒の記号はほぼ等しいことを示します)
そのため重さ40 gの水の容積は約40 mLになります。
(子供と比重と単位について考えてみる機会にしてもいいかもしれません)
手順A2.
1.5 gの食塩を40 mLの水に溶かす
ガイドブックにはキット付属の試験管を使って食塩を計量する方法がのっていますが、今回は電子はかりで1.5 gの食塩を計量しました。
具体的には、10 cm × 10 cmに切ったコピー用紙(薬包紙の代わり)と電子はかりを使って1.5 gの食塩を計量します。
コピー用紙は写真のように折るとはかりの上で安定し、食塩をペットボトルに移すのも簡単になるのでおすすめです。
1.5 gの食塩をペットボトル内の40 mLの水に入れて、溶かします。
溶かすために混ぜるときは、円を描くようにペットボトルを回すと、泡立ちを抑えて撹拌できます。
手順A3.
キットに付属の細胞溶解液のもとを溶かす
最後にキット付属の細胞溶解液のもとを手順A2のペットボトルに入れて溶かすと、細胞溶解液の完成です。
細胞溶解液のもとは、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Sulfate:SDS)を水に溶かしたものです。
界面活性剤であるSDSは泡立ちやすいので、ここでも混ぜるときは円を描くようにペットボトルを回して撹拌することをおすすめします。
溶けにくい場合はお湯でペットボトルのまわりを温めます(温度が上がると、試薬の溶解度があがり溶けやすくなります)。
B. ブロッコリーからのDNA抽出
実験に必要なブロッコリーの量は、切り分けた一房程度あれば十分です。
冷凍のブロッコリーでも問題ありません。
手順B1.
ブロッコリーのカット
ラップの上で、はさみを使ってブロッコリーのつぼみ部分だけをカットします。
キットに付属の試験管立てのお皿で2皿分カットします。
手順B2.
ブロッコリーをつぶす
キット付属のメッシュのふくろにブロッコリーを入れて、金属製のスプーンを使ってブロッコリーをつぶします。
<補足説明>
DNAを抽出するためには細胞を破壊する必要があります。
スプーンでつぶすことで細胞(特に植物にある細胞壁)を物理的に破壊します
手順B3.
細胞を溶解する
作製しておいた細胞溶解液を試験管に約3 mL入れます。
3 mLは試験管内の水面の位置を目安に入れます(ガイドブックに説明があります)。
<アドバイス>
少ない量の溶液を試験管内に入れることは意外と難しいので、市販のスポイトなどを用意して使用すると作業が楽になります)
細胞溶解液の入った試験管につぶしたブロッコリーをすべて移して、キットに付属のまぜ棒で混ぜた後、5分程度置いておきます。
<補足説明>
細胞溶解液の界面活性剤(SDS)は脂質でできた細胞膜や核膜を破壊します。
その結果、核内のDNAが溶液中に溶け出します。
手順B4.
細胞残渣とDNA抽出液を分ける
キット付属のメッシュのふくろを使って、細胞残渣とDNAが含まれるDNA抽出液を分けます。
手順B5.
エタノール液を準備
約2 mLのエタノール(室温で保管していたもの)を別の試験管に入れます(市販のスポイトを使用すると簡単です)。
冷やしたエタノールを用いた実験
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」のガイドブックには記載されていませんが、今回は冷蔵庫の冷凍室で一晩冷やしたエタノールも用意しました(冷凍室の温度ではエタノールは凍りません)。
なぜこのようなことをしたのかというと、冷やしたエタノールを使用するとDNAの溶解度が下がり、室温のエタノールを使用した場合よりも析出する(目に見える)DNAが多くなることを期待したからです。
実際に研究の現場などでは、DNA抽出などの際にDNAを多く回収するために冷やしたエタノールを使用することがあります。
手順B6.
DNAの析出
実験キット付属のスポイトを使って、手順B4のDNA抽出液を3てきほど試験管に準備したエタノールに落とします。
しばらく観察しているとDNAが析出して、白い糸のようなDNAが観察できます。
(DNAが析出するメカニズムはガイドブックに書いてあります)
結果
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」の実験キットを使って、ブロッコリーから抽出したDNAを実際に見ることができました。
しかも私が予想していたよりもDNAの析出量は多く、室温のエタノールでも見てわかるほどの十分な量のDNAが析出しました。
冷やしたエタノールを用いた実験のほうが析出したDNAの量は多く感じられましたが、この実験の目的はブロッコリーから抽出したDNAを目で見て観察することなので、室温のエタノールで十分でした。
冷やしたエタノールを用いた実験は余計な実験でした。
参考程度の情報と考えていただけると幸いです。
自由研究:実験の前に研究計画を立てる
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」を使って自由研究をする場合には、実験を行う前に研究計画を立てることをおすすめします。
実験をやっただけでは残念ながら研究にはなりません。
自由研究のためには、実験の前に研究計画(既知情報の整理、仮説の立案、目的の設定、実験の計画)を立ててみてください。
研究計画の具体的な内容
【既知情報の整理】
一般的に知られていること(または自分がすでに知っていること)を整理する
【仮説の立案】
既知情報から仮説を立てる(どんな結果になるか予想する)
【目的の設定】
研究の目的(何を明らかにするか)を決める
【実験の計画】
研究の目的を達成するためにどんな実験をするか計画する
研究計画を立てた後に実験を行って、実験結果をもとに考察して研究レポートを作成します。
研究計画を立てておくと、どんな実験をして何を考察すればよいのか明確になります。
自由研究のレポートの書き方は関連記事「博士が教える!小学校高学年・中学生の科学的な自由研究レポートの書き方」で紹介しています。よかったらそちらも読んでみてください。
研究計画の例
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」を利用した自由研究の研究計画の例を2つ紹介します。
これらを参考にして、自由研究の研究計画を考えてみてください。
研究計画例1
【研究タイトル例】
異なる生物から抽出したDNAに違いはあるのか?
【既知情報の整理】
すべての生物はDNAを持っている。
植物と動物、人間は特徴が違う。
【仮説の立案】
植物と動物、人間は特徴が異なるため、持っているDNAの特徴も違う可能性がある。
【目的の設定】
植物と動物、人間のそれぞれのDNAに違いがあるのかどうか明らかにする。
【実験の計画】
ブロッコリー(植物)、トリまたはブタのレバー(動物)、人間の口の細胞(人間)からDNA抽出実験を行い、得られたDNAを観察し比較する。
【実験と考察】
実験を行い、結果を整理してまとめます。
考察では、各生物から抽出したDNAの外見的な違いについて考察します。
実際にはDNAはいずれも白い糸状に見えて、外見的には明確な違いはないと思います。
そこで、なぜ抽出したDNAの外見が似ているのか考察してみましょう(ヒント:DNAを構成している部品はシンプルです)。
また、抽出したDNAの外見は似ているのに、なぜそれぞれの生物の特徴は異なっているのか理由を考察してみましょう(ヒント:DNAの配列(A、C、G、Tの並び方)について考えてみてください)。
【研究レポート】
最後にこれらを研究レポートにまとめます。
既知情報と仮説は<研究の背景>として記載するといいと思います。
研究計画例2
【研究タイトル例】
ブロッコリー細胞の物理的破壊の有無がDNA抽出に与える影響
【既知情報の整理】
ブロッコリーからDNAを抽出する工程には、ブロッコリーをつぶす作業がある。
【仮説の立案】
ブロッコリーをつぶさなければDNAは抽出できない。
【目的の設定】
ブロッコリーからDNAを抽出するには、ブロッコリーをつぶす作業が必要であることを検証する。
【実験の計画】
ブロッコリーをつぶす作業を含むブロッコリーからのDNA抽出実験と、ブロッコリーをつぶす作業を含まないブロッコリーからのDNA抽出実験。
【実験と考察】
実験を行い、結果を整理してまとめます。
考察では、ブロッコリーをつぶす作業がなぜ必要なのか、細胞の構造なども含め考えます。
また、細胞を物理的に破壊する方法にはどのようなものがあるか調べて紹介するとよいかもしれません。
【研究レポート】
最後にこれらを研究レポートにまとめます。
まとめ
Gakken(学研)の「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」をレビューしました。
本格的なDNA抽出実験が手軽にできて、子供の夏休みの自由研究にも活躍してくれそうです。
「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」は、DNAを身近に感じられる良い商品だと思います。
「自由研究おたすけキット」ということもあり小学校高学年から中学生ぐらいの子供におすすめですが、大人がやっても十分に楽しめます。
あなたも、「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」を使ってDNAの存在を確かめてみてはいかがでしょうか?
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