夏休みの宿題などで自由研究をした場合、レポートなどにまとめて学校に提出することになりますよね。
せっかくの自由研究なので、レポートも科学的な研究論文に近いものを書いてみませんか?
ここでは、ライフサイエンス系博士(本ブログの管理人)が、科学者が書く研究論文の書式をもとに、ワンランク上の自由研究のレポートの書き方を紹介します。
この書き方を覚えておけば、将来研究などに携わって研究論文や報告書を書くときにも役立ちます。
自由研究を利用して、科学者としての資質をのばしてください。
目次
自由研究
科学的な研究レポートを書く前に、自由研究を行うことが必要です。
自由研究を行うためには、まずはどんな研究を行うのか研究計画を立てることをおすすめします。
研究計画の具体的な内容
【既知情報の整理】
一般的に知られていること(または自分がすでに知っていること)を整理する。
【仮説の立案】
既知情報から仮説を立てる(どんな結果になるか予想する)。
【目的の設定】
研究の目的(何を明らかにするか)を決める。
【実験の計画】
研究の目的を達成するためにどんな実験をするか計画する。
研究計画を立てた後に実験を行って、実験結果をもとに考察して研究レポートを作成します。
研究計画を立てておくと、どんな実験をして何を考察すればよいのか明確になります。
研究計画に関しては、関連記事「【博士のレビュー】「自由研究おたすけキット DNAを調べよう」の実際は?」で具体例を挙げて説明しているのでよかったら読んでみてください。
科学的な研究レポートの構成
自由研究の実験が終わったら、研究レポートを作成して自由研究の内容をまとめます。
研究論文の書き方を基にした科学的な研究レポートの構成は以下となります。
(夏休みの宿題として、自由研究の感想が必須である場合は考察の項目の次に「感想」の項目を設けて記述してください)
・研究タイトル
・著者情報
・研究レポートを書いた日付
・背景と目的
・材料と方法
・結果
・考察
・謝辞
・参考文献
科学的な研究レポートの各項目の説明
科学的な研究レポートを構成する各項目について、私が作成した自由研究レポート例を使って説明していきます。
(研究レポート例はPDFファイルとしてダウンロードできるので参考にしてください。内容がいまいちなのはご容赦ください。研究レポート例 PDFファイルをダウンロード。)
研究タイトル
研究タイトル(表題)は、研究の顔のようなもので、読む人の第一印象となります。
せっかく頑張って自由研究をするのですから、すてきな研究タイトルをつけてくださいね。
研究のおもな内容がわかるように研究のキーワードをいれて、文が長くならないようにしましょう。
他の人が読んでみたいなと思うようなタイトルをつけられるといいですね。
そのためには、家族など自分以外の人に考えた研究タイトルについて意見をもらい、必要に応じて修正するのがいいかもしれません。
著者情報(書いた人の名前と所属)
研究レポートを書いた人(自分)の名前と所属(学校名と学年と組)を書きましょう。
研究レポートを書いた日付
研究レポートを書いた日付を研究レポートに記入しておきましょう。
日付は研究レポートを書き上げた日、または提出する日を書くといいです。
研究における発見(成果)は、最初に公表した人(人達)の功績になります。
研究の中に新発見があった場合、日付があることであなたの功績となるかもしれません。
背景と目的
研究の背景と目的の項目は序文や序論と表記しても構いません。
研究の背景として、なぜ研究を行ったのか(研究のきっかけや動機)を説明します。
他の人が研究内容を理解できるように、研究内容に関連する一般的に知られていること(既知情報)を整理して、簡潔に書きましょう。
既知情報から仮説を立てる(どんな結果になるか予想する)ことができる場合は、その仮説を記載します。
研究から何を明らかにするかを伝えるため、研究の目的を書きます。
文章と参考文献を関連付けよう!
文献や書籍、Webサイトなどを参考にして文章を書いた場合、または文章をそのまま引用して研究レポートに書く場合は、そのことがわかるようにレポートに明記しましょう。
文章を書くのに使用した参考文献が明確になるように、例えば、研究レポートの最後に記載する【参考文献】の番号を関連する文章の最後などに書きます(番号の場合は上付き文字で文章と区別できるように書きます)。
材料と方法
研究で使用した材料や実験方法を簡潔に書きます。
材料と方法に書いてある内容に基づいて他の人が同じ実験をできるように意識して書きます。
ただし、実験方法をすべて詳しく書く必要はありません。
実験するために必要な最低限の情報だけで大丈夫です。
例えば実験キットを使用した場合は、使用した実験キット(販売元の情報も書きましょう)を記載するだけで十分です(同じ実験キットを使用すれば他の人も同じ実験ができます)。
もし、実験キットに書かれている方法を改変して実験を行った場合は、その改変した内容を書いておきましょう。
また、書籍やWebサイトなどの実験方法(誰でもアクセス可能な既知情報)を参考にした場合も、そのことを明記すれば実験方法を詳しく書く必要はありません。
一方で、自分で考えたオリジナルな実験方法の場合は、世界初なので他の人でもできるように詳しく書く必要があります。
結果
実験や観察などで得られた結果を整理して、順序を考えて記述します。
結果は事実に忠実に書きましょう。
自分に都合の良い結果だけ選んで書いたり、捏造したりしないようにしてください。
図(写真、グラフなど)と表を効果的に使って、結果をわかりやすく説明しましょう。
図や表には、図1、図2、表1、表2などの番号をつけて、図や表にタイトルと説明分を書きます。
図の場合は、図の下にタイトルと説明分を書きます。
表の場合は、表の上にタイトルと説明分を書きます(補足事項がある場合は、補足事項のみを表の下に書くことがあります)。
結果の文章のふさわしい場所に図表番号を書き、文章に関連した図や表を見てもらえるようにしましょう。
考察
考察では、実験結果がどのようなことを意味しているのか客観的に説明します。
複数の関連する実験結果がある場合は、それぞれの結果の関係性なども記述しましょう。
自分の予想に反した結果がる場合は、その理由について説明を試みてください。
説明できない場合は素直にそのことも書きましょう。
新たな発見がある場合は、他の人が行った類似の研究などと比較して、自分の研究と他の研究の違いを明らかにします。
考察の中で結論として、研究の結果から導き出されることを書きましょう(結論は考察と異なる項目としてもよく、その場合は考察のあとに結論の項目を設けてください)。
目的と対応させると結論を書きやすいかもしれません。
ただし、結論が当てはまるのは特定の実験条件下の範囲内だけの場合が多いので、結論が適用される範囲もわかるように書いておきます。
研究結果に学術的な意義や産業利用の可能性などがあれば記述します。
研究に発展性がある場合は、将来的な展望も書いておきます。
謝辞
もし研究を行う上で重要な支援(専門家からのアドバイスや材料の提供など)をうけた場合は、謝辞の項目で明記します。
特に記載する内容がない場合は、謝辞の項目は省略します。
参考文献
研究レポート内で文章を引用したり、文章を書くために参考にしたりした文献、書籍、Webサイトなどをまとめてリストとして記述します。
参考文献の記述の方法は様々な書式がありますが(科学雑誌によって記述の方法が違う)、たくさん紹介して混乱してもいけないので1例のみ紹介します。
(SIST 科学技術情報流通技術基準のWebサイト(参考サイト1)に参照文献の書き方が紹介されているので、興味があればアクセスしてみてください)
(参考文献の記述の方法を決めたら、リスト内はその書式で統一して書きます)
研究レポートで登場する順に番号をつけてリストにします。
参考文献の記述の例
文献(和文誌)
著者名.論文名.誌名.出版年 巻数(号数): はじめのページ-おわりのページ.
例:馬場典子, 片山隆志, 香西武, 米澤義彦. 中学校理科第2分野におけるDNA抽出実験の再検討. 生物教育 2013 53(4): 168-175.
文献(欧文誌)
著者名(ファミリーネーム、ファーストとミドルはイニシャル).論文名.誌名(国際規格に従って略記してもよい).出版年 巻数(号数): はじめのページ-おわりのページ.
例:Watson JD, Crick FHC. Molecular structure of nucleic acids; a structure for deoxyribose nucleic acid. Nature 1953 171: 737-738.
書籍
著者名.書名.版表示 出版者 出版年.
例:Fieser LF, Williamson KL. フィーザー/ウィリアムソン有機化学実験. 第8版 丸善出版 2000.
Webサイト
著者名.”ウェブページの題名”.ウェブサイトの名称.入手先(URL),(入手日付).
例:”エタノール沈殿”. Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%BF%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB%E6%B2%88%E6%AE%BF, (参照 2021-06-18).
関連記事「博士が教える参考文献(学術論文)の探し方!小学生・中学生の自由研究」もよかったら読んでみてください。Google Scholarとういう検索サイトを使用して学術論文を探す方法を紹介しています。
科学的な自由研究レポートの体裁
特に指定がない場合は、研究レポートはA4サイズの用紙を使って書きましょう。
複数のページになる場合は、用紙の下のほうにページ番号を書いてください。
手描きで書く場合は、黒のボールペンなどの消えないペンで書くことが好ましいです。
ただし、ボールペンで間違わずに書くのは大変なので、文章を先に下書きして完成させ、それを書き写すなどの工夫が必要かもしれません。
もし可能であればパソコンのWordなどのソフトを使ってレポートを作成し、印刷して提出することをおすすめします(自由研究に関してパソコンの利用が学校で許可されているかどうか事前に確認してくださいね)。
パソコンを使用することで、文章の推敲が楽になり、研究内容をまとめることに集中できます。
図や表の作成もパソコンで行ってみてください(ExcelやPowerPointなどのソフトを使用します)。
パソコンを使いこなせるようになることは将来に役立つので、積極的に取り組んでみてください。
パソコンで自由研究レポートを作成する場合は、書体はMS明朝(日本語の部分)とTimes New Roman(英語の部分)の組み合わせがおすすめです。
本文の文字の大きさは12 ptがおすすめですが、大きすぎると感じる場合は10~12 ptの範囲で好みの大きさに設定してください。
印刷は片面印刷してください(こだわりがあれば両面印刷してください)。
研究タイトルと著者情報、研究レポートを書いた日付を書いた表紙をつけて、レポートをホッチキスなどで綴じて提出してください。
表紙が文字だけで物足りない場合は、研究内容を表す図や写真を表紙にのせるといいかもしれません。
科学的な自由研究レポートの文章の書き方
文章を書く時のポイントを紹介します。
文章は常体で書く
文章の文末は「~です。」、「~ます。」といった敬体は避けて、「~だ。」や「~である。」の常体で書きます。
口語表現(話し言葉で使う表現)を使うことは避けましょう。
主語を意識する
日本語の文章は主語がわかりにくい場合があります。
文章中に主語があるか確認しましょう。
「思った」よりも「考えられた」
科学的な文章では客観的な記述が大切になります。
「思う」という言葉は主観的な(自分が勝手にそうだと思っている)印象を与えます。
そのため、文章中では「思う」「思った」などの表現の使用は避けます。
「思う」の代わりに「考える」を使用し、「考えられた」などの受動態の表現にすると客観的な印象になります。
好ましくない例:
私は実験結果からAよりもBのほうが優れていると思った。
好ましい例:
実験結果からAよりもBのほうが優れていることが考えられた。
文章の時制を意識する
自由研究レポートでは現在形や過去形の時制を意識して書きましょう。
例外もありますが、周知の事実などは現在形で書き、自分が行ったことは過去形で書くと覚えておくといいと思います。
研究の背景の部分などで既に知られていることや一般的な事実であることを記述する場合は、現在形を用います。
例:生物にはDNAが存在する。
一方、材料と方法、結果、考察の部分では、主に自分が行ったことを書くので、過去形を用いて記述します。
例:〇〇実験を行った。
例:実験結果から〇〇であることが考えられた。
ただし、図や表を見てもらいたいときの文章は現在形を用いて記述します。
例:結果を図1に示す。
学名はイタリック体(斜体)表記
生物の学名はラテン語扱いなのでイタリック体(斜体)で表記します。
例:Escherichia coli(大腸菌の学名)
文章中に一度出てきた学名は、2回目以降は属名を省略して以後表記することができます。
例:E. coli
数値と単位
パソコンのソフトを使用して自由研究レポートを作成する場合の話になりますが、数値と単位の間には基本的に半角スペースをあけます。
例:1 ml, 5 m, 10 cm2
(リットルの表記は小文字の” l ”、大文字の” L ”のどちらでもOK)
%(パーセント)
濃度を表す%(パーセント)を使うときは、%のあとに括弧書きで重量(w: weightの頭文字)と重量(w)の比、容量(v: volumeの頭文字)と容量(v)の比、重量(w)と容量(v)の比が明確にわかるようにします。
例:
70 % (w/w)のエタノール水溶液:(70 gのエタノールが溶液100 gに入っている)
70 % (v/v)のエタノール水溶液:(70 mlのエタノールが溶液100 mlに入っている)
70 % (w/v)のエタノール水溶液:(70 gのエタノールが溶液100 mlに入っている)
まとめ
自由研究の科学的なレポートの書き方を紹介しました。
内容的に難しい部分もあったかもしれませんが、科学的な書き方を少しでも意識するだけでレポートは説得力のあるワンランク上のものになると思います。
自由研究とレポートまとめを通して、科学的な考え方や文章の書き方を身に着けてください。
きっと将来の役に立つと思います。
自由研究ということもあり小学校高学年と中学生を主な対象としてレポートの書き方を紹介しましたが、高校生や大学生、社会人のレポートや報告書、論文作成にも役立つ内容があると思います。
ご活用いただけると幸いです。
参考サイト
- ”参照文献の書き方”. SIST科学技術情報流通技術基準. https://jipsti.jst.go.jp/sist/handbook/sist02_2007/sist02.htm#5-1, (参照 2021-06-18).
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